カバンを拾ってさっさと立ち去ろうとする春樹くんの背中にお父さんが声をかけた。
「なあ、その子、オマエの彼女?」
呂律のまわりきらない声でお父さんが私を顎でしゃくる。

「さーね。アンタには関係ねーだろ」

ムスッとする春樹くんをお父さんが笑った。
「彼女じゃねえか。パッとしねーもんなあ。どーせならもっとハデでキレーな子選ぶよなあ」って。

お父さんの言葉が、ぐっさーって胸を刺す。
突然の個人攻撃に固まる私の横で、春樹くんが堂々とウソを叫んだ。

「この子、オレの彼女!」
「へー。イマイチだな」
「んなことねーわ、すっげーカワイイわ! ケチつけんなよ!!」

怒りの滲んだ声でそう叫んでから、春樹くんが私の腰に腕をまわした。
「いこ、すみれ」
春樹くんに急かされてくるりと身体の向きを変えるとーーー

なんと私たちの目の前には加瀬くんがいた。

「!!!」

穴があくほど私の顔に視線を注ぎつつも、呆然と立ち尽くす加瀬くん。
彼の存在に気づいた途端、春樹くんが加瀬くんの背中に腕をまわして強制的に回れ右をさせた。
そして私たちふたりの腰を抱いたまま、春樹くんはまっすぐに駅を目指したのである。