春樹くんがカップを拾い集めて立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回してゴミ箱を探す。

「ねえ、大丈夫? 顔色ムチャクチャ悪いけど・・」

背中に声をかけてみると、彼は気の抜けたような笑顔を浮かべて「大丈夫、ありがとう」って穏やかに笑った。
「ちょっとビックリしてるだけ。こんなの慣れてるし。ーーーたださ、こんな目立つトコでやられんのはさすがにこたえる」
大丈夫だって言いながらも彼がポロリとこぼした本音に、私は何も言うことができなかった。
垣間見てしまった春樹くんの現実は重い。

私はロータリーの隅の自販機でお茶を2本買ってきて、彼のすぐ隣に座り直した。
「お母さんが来るまでつきあうよ」
「アリガト。でもオレらのことは気にしなくていいよ。そろそろ電車くんじゃない?」
「そんなのいいよ。お父さんがこんな状態じゃ大変でしょ。なんかあったら私も手伝うから」
私がそう言うと、春樹くんは泣きそうな顔をして笑った。
「んじゃ、甘える」って。