イヤホンを外して遠くからじっくりと確かめるように2人を眺めてみるが間違いない。
春樹くんと、もう一人の男性はおそらく春樹くんのお父さんだろう。

朝の通勤通学時間帯だから、たくさんの人たちが駅へ向かって歩いてく。
だけど春樹くんたちに近づこうとする人なんて誰もいなくて、彼らの周りにだけ不自然な余白ができあがっていた。

声をかける? それとも、見ないフリするほうが親切なんだろうかーーー

迷いながら彼らのそばまで歩いていった私は、友人の背中に小さく声をかけた。
「春樹くん、オハヨ」
ぎくりとふりむいた春樹くんの顔は坂川の本屋で会った時のように真っ白で、すっかり血の気を失っていた。

「オ、オハヨ、すみれちゃん・・」

春樹くんちの事情なんか周知の事実で、同中の子ならみんな知ってる。
だけどこんな目立つところでベロベロに酔ったお父さんを見るのはさすがに私も初めてだった。