「言い訳をするなあッッ!!」

強烈な一喝とともに、待ってましたとばかりに父のイビリがはじまった。
理由なんかなんだっていい。理屈や辻褄だっていらない。
怒鳴りまくって相手が平伏すのを見たいだけ。すっきり気持ちよくなれればそれでいいのだ。

そもそも今夜は機嫌が悪い。
何事もなく終われるわけがなかった。

激高して怒鳴り散らす父と肩をすくめて青ざめる母を尻目に、私は必死でゴハンをかきこんだ。だけど後少しで「ごちそうさま」ってところで、たまらなくなった母が隙をついて私に話をふってくる。
父が喜んで食いつきそうな、新たなエサをまくために。

「そういえばすみれ、男の子と一緒に歩いてたんだって? 坂上さんから聞いたんだけど、だあれ? 彼氏?」
「男!? オマエ、その男とつきあってるのか!!」

ああやられた。
今度は私の番だ。

真っ赤な顔で怒鳴りまくる父と、眉を下げて困ったように笑ってみせる母。

私は残りのごはんを一気にかきこむと、
「ごちそうさま!!」
って叫んで猛ダッシュで自分の部屋に駆け込んだ。

最初はコレをやると怒り狂った父が部屋まで追いかけて来たものだけど、最近じゃめっきりそういうこともなくなった。

戦わずして逃げるっていうこの一見すごくみっともない『対父防衛法』。
だがしかし、侮るなかれ。
『同じ土俵に上がらない』って姿勢を見せることは、すごーく意味のあることだと私は思っている。

父みたいなヤツーーー歩みよる気もなければ、自分の行いを振り返ってみようって気もないーーーそういう相手を片側だけの論理でどうにかしようってのはホントに至難の業なのである。てか、無理なのだ。

早々に諸々を諦めた私は、家族と距離をおきつつ、今は自分の心を守ることだけに専念し、日々慎ましく生活している。