今オレは意識してシッカリと顔を正面に向けている。
このまま我慢して前を向いてりゃいいのに、オレにはどーっっしてもそれができない。
ダメってわかってんのに、つい、ハルキへ視線を送っちゃう。
そしたら、待ってましたとばかりにオレと視線を絡ませたハルキがベーって長い舌を見せつけてくる。鼻のアタマに思いっきりシワを寄せて。

瞬間、オレは怒りに震えた。

こんなの、わかりきってた。
わかってたのに、それでもなお、猛烈に腹立たしい。

思わず知らず、握りしめた拳が震える。
くっそう、今日はベーか!! 
ガキかあいつは。小学生か!!

ハルキは小宮山への挨拶の仕上げに、必ずこうやってオレに喧嘩を売ってくるのだ。

ヤツから視線を外してバッと隣を振り向けば、曖昧な表情を浮かべた小宮山がわざとらしくスマホをいじるフリをしている。こういう面倒が大嫌いな小宮山は、極力知らんぷりをかまそうと頑張るのだがオレはけしてそれを許さない。

小宮山の腕をつかんでがくがくと揺する。
「見た!? 今の!!」
「いや。なんっっにも見てない」
上目でチラッとオレの顔を見上げる彼女。
「アイツまたオレにベーッてした!」
「はあ。もう・・」
関わる気ゼロの小宮山が心底嫌そうな声を漏らしつつ、首を伸ばしてハルキの様子を窺う。
「ほっときなよ。アッチ見なきゃすむ話じゃん」
「無理!! それができたら苦労しねーんだよ!! くっそー、アイツいつまでもハラ立つうう!!」