父が空になったグラスをガツンてテーブルに置いた瞬間、私はヒュッと息をのんでお腹にぎゅううっと力を入れた。

くる!!

ーーーって思ったから。だけど、それは空振り。

父はビールの缶に手を伸ばしただけだった。
お酌をし損ねた母が慌てて腰を浮かすのを無視して、父は自らなみなみとグラスにビールを注ぎ、「くっだらねえ番組だなあ。出てるやつらもバカばっか」なんて笑いながら機嫌よくグラスに口をつけたのだ。

母がホッと胸をなでおろして椅子に座り直す。
私だって思った。
ひとまずは「ああ、よかった」って。

ところが父はすぐにテレビに興味を失って、くるりと話題を変えてきた。
「それより来月の法事、あれちゃんと断ったか?」
再び母にギクリと緊張が走る。
「あれはもう少し先でないと断りづらいでしょう?」
お断りの口実に急な仕事ってテイを装いたい母がそれを説明するんだけど、そんなのはムダ。