加瀬くんの言う通り、部室には誰もいなかった。

「うっわあ。部室らしくなってる!」

あんなに殺風景だった部室が見違えるよう。
小野先生からの指示が書き殴られたホワイトボードや、テーブルの上のダンボールに放り込まれたなにかしらの金属製のパーツ。部活とは関係なさそうな某漫画雑誌やサッカーボールまで転がってる。
殺風景だったあの空き部室は、すっかり理系男子たちの城と化していた。

いつも座ってた壁際のベンチに私を座らせると、加瀬くんは間髪入れずにそのままぎゅうぎゅう私を抱きしめた。

「ちょっと待って、ハナシがあるの!」
「後にしてよ、今はムリ!!」

すりすりと頬をよせられながら、心地いい腕の中で素早く考えを巡らせる。
ーーーま、いっか。
だって加瀬くん、ドアに鍵かけてた。ブラインドだってきちんと閉まってる。
ここでならちょっとぐらいイチャイチャしたって大丈夫。

ホッとしたら身体の力がすうっと抜けた。そーいう雰囲気って加瀬くんにも伝わるみたいで・・

「なあ、キスしていい?」
「ウン。してって頼もうと思ってたの」
「一応聞くけど、オマエ、嫌じゃねーの? オレとキスすんの」
「嫌なわけないでしょ」
「ならなんで??・・ま、いーや。ハナシは後ね!」

言うが早いか、加瀬くんに唇を塞がれる。
久しぶりの恋人らしい触れ合いは、私たちが抱え込んでたここ最近の不安をきれいに吹き飛ばしてくれたのだった。

***