宣言通り、加瀬くんは優しかった。
やらしいキスばっかしてたのが嘘みたいに、大事に大事にキスしてくれる。
よかった。これなら大丈夫。

ああでも私たち、ちっとも花火を見ていない。

花火の音が変わった。おそらくラストだ。
「加瀬くん、花火が終わる・・」
加瀬くんの後ろ。遠くに上がる連発の花火を、目だけで追う。

「いい。オレ今見たくない」

加瀬くんに視界を塞がれて、花火はすぐに見えなくなった。
結局、そのまま花火は見ていない。いつ終わったのかもわからなかった。

花火が終わって海がしんとなると、松原は静かで、マックラで・・

「こわっ。加瀬くん、明るところいこ?」
「じゃ、海歩く?」

砂浜を、手をつないで歩いた。
駅の方へ向かうにつれ、海は少しずつ明るさを取り戻してく。
花火があがっていた港の辺りにはオレンジ色のあかりがいくつも灯って、それがキラキラと反射した夜の海は、胸が震えるほどキレイだった。

忘れたくないなって思った。
一緒に食べたヤキソバの味も。
初めてしたキスも。
遠くで聞こえた花火の音も。
潮の匂いも。

「あーあ。もう帰るのか」
「寂しくなっちゃった?」
「ウン」

「じゃあさあーー」

手を引かれて砂浜にふたり一緒にしゃがみこむ。
加瀬くんが耳元でささやいた。

「さっきの、もっかいする?」

加瀬くんが少しだけ夜の終わりを先のばししてくれる。
これも私の大切な思い出。

もうすぐ夏が終わる。