一方、加瀬くんは、バイトのシフトが午前中の日は必ずお店に顔を出してくれていた。
だけど高校生だし、そうそうお金が続かない。3回目からは、お店の裏口に私を迎えにきてくれるようになった。

カフェの裏は小高い丘のようになっていて、傾斜の緩い階段状の歩道がカーブを描いて上へ上へと伸びている。
最初、加瀬くんが裏にまわる道がわからなかったのは、ちょっと変わったこの地形のためだった。

裏口のまん前にはどーんと1本大きな百日紅の木があり、その木陰が加瀬くんの定位置になっていた。
なぜか加瀬くんはいつも百日紅のお花を背中にしょっている。
みっしりと咲き誇る濃いピンク色の百日紅の下に一人佇む加瀬くんはなかなかにステキで、裏口のドアを開けるたびに私はドキドキと胸を高鳴らせてしまうのだ。

バイトの後でこうやって加瀬くんに会えることが、私のこの夏一番の楽しみとなっていた。