もう一度カウンターのハルキを確認してから、マナが更にぐっと声のトーンを落とした。
「ハルくん、すみれのこと本気で好きみたいだね?」
「・・・」
「私がオシリ叩いてあげてた時は知らんぷりしてたくせに、手遅れになってから頑張りだすんだもん。何やってんだか」

マナが「ねえ?」ってオレの顔を覗き込んでくるけど、そんなの知ったこっちゃない。
オレには迷惑この上もないハナシだ。

「アホなんだろ。そんなだからオレみたいなのに負けんだよ」
「アホじゃないでしょ、恋でしょ! そーゆう言い方やめなさいよ。ハルくん可哀想!」
「バカ言え、オレのがよっぽど可哀想だろが!」
ハラの底からの悲痛なオレの返しにマナが可笑しそうにプッとふいた。んで笑いを堪えながら、今頃になってやっとメニューを開いて手渡してくる。
「ウン、たしかに。お気の毒。でもさあーーー」

マナが言うのだ。この夏が終わってみるまでわからない、って。
オレの勝ちはまだ確定してねえ、って。

「・・は?? なんで?」
首をかしげるオレに、マナが不吉な笑みを浮かべて不吉なコトを口走る。
まだ(・・)わかんないって言ってんの。ハルくん、ここから巻き返すつもりよ、絶対。そのためのバイトに決まってんじゃん」

略奪しよーってのか。
オレから、小宮山を・・?

むっすりと黙り込むオレのすぐそばで、突然、入り口のドアがカランコロンって鳴った。ダラダラと油売ってたマナがハッと顔を上げる。
入ってきたのは、結構な人数のグループ客だった。
「ちょっと、注文決めた? 忙しいんだから早くしてよ」
無駄話ばっかしてたくせに、いきなりオレを急かしはじめる。

「オススメどれ?」
「このワッフルのセット」
マナがメニューを指差す。
「じゃ、それ」
「はあい」

言うが早いか、マナはカウンターの奥へしゅっと消えた。

ここで毎日4時間、小宮山はマナとハルキと一緒にすごす。オレの目も手も届かない場所で。諦める兆しなんかいっこもなさそうなハルキと、絶対にオレの味方なんかしないマナと、3人で。