「あのね、春樹くんの件、もう終わったよ」
「なんで? 何が終わり?」
「春樹くんにもう話しかけないでって言ったの。あれから一言も口きいてないし、なんならもう目も合わない」
私がそう言うと、加瀬くんは「えっっ!!」って叫んで硬直した。
「ウソだろ・・オマエ、あーんな八方美人なのにそんなことが言えんの!?」
「・・まあね!」
言い方ムカつくけど、間違いじゃない。

「アイツ大丈夫・・? ・・なワケねえか。そっか。へえ・・ふうん」
ブツブツと上の空の加瀬くんに、私はくるりと身体の向きを変えて改めて訴えた。
「後でも先でも加瀬くんがいい。絶対に」
「ホント?」
「ホント!」
きゅっと下唇を噛んで照れ臭そうに頬を染めた加瀬くんがほっぺをピタリとくっつけてボソボソと囁く。
「んじゃあ、今からムチャクチャキスするけど・・いい?」
「ウン、全っ然いい。大好き・・」

窓を締め切った部室は、急激に暑さを増していく。
だけど私たちがそのサウナみたいな部室を出たのは、それよりもまだ随分と後のことだった。