しんみりと、潮が引くみたいに春樹くんの顔から表情が消えていく。

「ホントにもうダメなの?」
「ウン」

「本気でオレに関わるなって言ってんだね・・」
「・・そうだよ」

つきあってたわけじゃない。
ほんの少し、同じ時間を共有してただけ。

「すみれちゃんがいなくなっちゃったら、オレ、どうしたらいいかな・・」

文字通り、まんま捨て猫のような目でみつめられて、強烈な罪悪感が湧き上がった。
衝動に駆られて、思わずその手を取ってしまいそうになる。
ザワザワと激しく波打つ胸の内を隠して、私はそっと春樹くんから目を逸らした。

自分の幸せよりも手を伸ばしてくる誰かの幸せを優先してあげなきゃいけないんじゃないか、っていう抗い難い強迫観念。

実はこれが、私たちが漂わせてる特別なニオイの正体だ。
誰かにすがりつきたい者と、それを受け入れてすがりつかせる者。
そういう者同士が出会って何かがカチリと嵌り合うと、まるで恋に落ちるみたいに強烈に、一気に距離が縮まっていく。
今、私が春樹くんに手を差し伸べてしまえば、間違いなく私たちもそうなってしまう。