結局それは、春樹くんだった。

休み時間に後ろを振り向いてきた春樹くんは、私とも加瀬くんとも何事もなかったかのように、ごくごく普通に会話をはじめてしまう。

「春樹くん、もう話せないって言ったよね?」
「だってオレはヤだ!」
「それでもダメなの! 加瀬くんにも言われたでしょ?」

「・・加瀬くんてなかなかイイ根性してるよね」
加瀬くんの名前が出た途端、苦虫を噛み潰したようなイヤ〜な表情を浮かべる春樹くん。
「オレらが全然話せなくなったの、アイツのせいなんでしょ?」

あの日、門島駅のホームで春樹くんと対峙した加瀬くん。
ガミガミと文句を言ってはみたものの、あまりの手ごたえのなさに加瀬くんはしばしボーゼンとした。その後、私たちの間に介入するって宣言した加瀬くんは、見えないところで発生していた『偶然の遭遇』を器用に叩き潰しはじめたのだ。片っ端から。
加瀬くんの介入は効果てきめんで、あれから私たちは本当に一度も顔を合わせていない。

「すみれちゃん、もしかして素直に加瀬くんの言うこと聞くつもり?」
「当たり前じゃん。彼氏だよ?」

「それ、遠回しにオレに死ねって言ってんだよね?」
「バカなこと言わないで」

春樹くんだってホントはわかってるはずだ。
私たちは一緒になんていられない。
春樹くんがどんなに駄々をこねたところで、どうにもなんないのだ。