「ねえ、やめとこーよ。そんなふうにコトを荒立てなくてもいいじゃない」
「ハア?」
「わざわざケンカ売るようなマネしないでよ。私、たいして手なんか出されてないし」
って言ったら、加瀬くんの眉が吊り上がった。
たいして(・・・・)!? って、それどーゆうコトだよ!!」
「いっ、いやいや間違えた。まったく(・・・・)だよ!!」

キスされそう、って場面が何度かあったことは、さすがに伏せている。
もしかしたらただの遊びか、勘違いかもしれないし。
経験値の低すぎる私には、正直イケメンのすることはよくわからない。

「小宮山がなんて言おーが、ヤなもんはヤだ。オレにはアイツに文句言う権利がある!」
フンてそっぽを向いた加瀬くんの横顔が腹立たしそうに歪んだ。
「アイツ、オレのいねー時ばっか狙って! 許可なく! 勝手に! 『オレの』彼女なのに! アイツ卑怯だし、すんげええ卑劣・・!」
怒り心頭って感じの加瀬くんがワナワナとグーを握りしめる。
「これのドコが手え出されてねんだよ!? 許すワケねーだろ! 事なかれ主義もたいがいにしろ!」
「・・ゴ、ゴメンネ」

加瀬くんが言うのだ。
春樹くんを私に近づけたくないんだ、って。
絶対に絶対にイヤなんだ、って。

そんなの聞いちゃったらもう何も言えなくなった。嬉しくて。

「てことだから。アイツに文句言ってきてもいーよね!?」

私はドキドキする胸をおさえつつ、結局シッカリとそれに頷いたのだった。