実は私、父のトラウマのためか、とにかく機嫌の悪い男が怖い。
だから自分はきっと感情が死んでるような男か、自分とそっくりなインチキ平和主義者としかつきあえないんだろなって思ってたのに、それがまさか加瀬くんみたいな男の子とつきあうことになるなんて。

私と違って自身の感情の起伏に遠慮のない加瀬くんは、こんなふうに機嫌が悪くなることもしょっちゅう。なのにどうして私が加瀬くんのそばにいられるのかって言ったら、それは加瀬くんが怖くないからだった。

そう、加瀬くんは怖くない。

芝生の上にゴロリと寝転ぶ加瀬くんのブスくれた顔をチラリと盗み見てみる。

こーんなに機嫌が悪いのに。
言いたい放題文句だって言われるのに。
それなのに、加瀬くんの隣は相変わらず居心地がよかった。

どんなに機嫌が悪くても、加瀬くんは私に当たり散らして鬱憤を晴らすようなマネを絶対にしない。それを散々やりまくられて育った私からすれば、加瀬くんは奇跡のような男の子だった。
私にとってどこよりも自由で、安全で、シアワセでいられる場所、それが加瀬くんのそばなのだ。