その日の放課後。
加瀬くんと私はやっぱりいつもの公園にいた。
むせ返るような暑さの中、百日紅の木陰で数プリひろげてみたまではよかったんだけど、猛暑の午後のあまりの過酷さに私は早々に音を上げた。

「あーダメ。頭がまわんない。こんな暑いのに数学とかムリ。やっぱり帰ろう?」
さっさと切り上げようとする私に、加瀬くんが慌てて自分の数プリを差し出してくる。「んじゃ、今日はオレの写してもいいから!」って言って。

「いーの!? なんで!? あんなにダメって言ってたのに??」
「・・だってオレ、まだココにいたい」
加瀬くんはささっとプリントを2枚並べなおすと、私の手に強引にシャーペンを握らせた。
「ハイ、やって?」
「じゃ、じゃあ遠慮なく・・」

もちろん数プリははかどった。
写すだけだから。
だけどやっぱり暑くて暑くて。表が終わってプリントをひっくり返したところで、今度こそ私の気力は完全に底を尽いた。

「もうダメ、死にそう。干からびる」
「んじゃお茶、飲めば?」
「いやいやいや・・」

今日は特別暑かった。
あんまり暑いから公園の中を見回してみてもほとんど誰もいない。
こんな暑い日にこんなとこにいる物好きなんて早々いないのだ。
「ねえ、もう帰ろうよ」
「イヤだ。帰らねえ」
なんとなく様子のおかしな加瀬くん。
「・・もしかしてだけど、なんか機嫌悪い?」

「全然」

いや、ウソだ。
だってさっきからムスッとうつむいたまま目も合わせようとしないじゃないか。なんでかわかんないけど、これは明らかにご機嫌ナナメの雰囲気である。

「ねえ、なんかあった?」
「・・・」

「おなかすいてるの?」
「オレはコドモか! まあ、チョットはすいてるケド・・」
「んじゃ、コンビニ行く? アイス食べたら元気出んじゃない?」