オレが最初にそれに気がついたのは、金曜の午後のことだった。
廊下を歩きながらも、なんとなく後ろが気になる。理科準備室に道具を運んでった小宮山がなかなか出てこないから。

「律、どーした?」
「小宮山が準備室から出てこねえ」
「理科室から出たんじゃないの? もう教室戻ってんじゃねえ?」
「うーん・・そうだっけかな・・」

グズグズと後ろを振り返るオレに、
「アレ見ろ。もう誰もいねーよ。先生が最後だろ」
って翔太が田辺先生の背中を顎でしゃくる。

「オレらもいこーぜ。小宮山がどーかしたの?」

・・・・うん、そう。チョットね。

どーかしたのかと聞かれれば、答えはイエスだ。最近の小宮山は「どーかしちゃってる」。
ただし理由はわからない。

「やっぱオレ戻るわ。先帰ってて」

どーしても小宮山のことが気になって、オレはひとり理科室へと踵を返した。

最近、なんとなく小宮山の様子がおかしいのだ。
元気がないし、ボーっとしてるし、それになんでか・・あまりオレと目を合わせようとしなくなった。
なのに何を聞いても「なんでもない」って返されて、『普通』のそぶりを絶対に崩そうとしないから、それ以上のことをオレは何も聞けないでいる。

理科室に近づくにつれ人の気配が強まってゆく。
ホラみろ。やっぱりまだ中にいる。
うっすら聞こえてくる男女の話し声のうち、女の方は間違いなく小宮山だ。それと、あと誰かわかんないけど男がもう一人。

ドアからヒョイと中を覗いたら、窓のそばに小宮山が1人で立っていた。外にいる男と話してる。
誰だろうと思ってそーっと首を伸ばしたオレは、そいつの顔を見て息をのんだ。

ハルキだったから。