「あのねえ春樹くん。こんなふうに一緒に登校するのはチョット・・加瀬くんの誤解を招きかねないし、ええっと・・困るかなって・・」
おずおずとお断りのセリフを口にすると、冷えた視線を送られる。
「別にオレ、すみれちゃんと一緒に登校してるつもりなんかないけど?」
「・・は?」
「たまたまココから乗っただけだし」
「エ??」

「偶然って言ったじゃん。すみれちゃん意識しすぎ。オレのこと好きなの?」
「違います」
「ならいーじゃん。オレがココに乗っててもなんの問題もないよね? ケチつけないでよ」

なにも言えなかった。

ところが門島で下車してからも、春樹くんはなぜかずうっと私の隣を並んで歩く。
「あのさあ、これも偶然近くを歩いてるだけなワケ?」
「ウン、そう。だってオレら向かう先一緒だし、しょーがないよね」
「はあ」
「それともオレに逆方向にでも歩いてけっつーの?」

「ーーーねえ、屁理屈がスゴイって言われない?」
「言われない。だってヨソじゃ言わないから」
「あっそう」

悪態つきながらもさりげなく左右を入れ替えて、車道側を歩きはじめる春樹くん。
なっがい足してるくせに、歩幅も私に合わせてゆっくり歩いてくれてるようだ。
優しく・・してくれてるんだな。きっと。

だけど。

やっぱり加瀬くんの顔ばかりが頭をよぎる。
ああ、困ったな。どうしよう。
こんなの絶対、加瀬くんがイヤがる。

「ねえ、すみれちゃん。手え出して」

手のひらに転がされたのは、可愛らしいイチゴの包装紙に包まれたキャンディだった。
それをみっつ、よっつと楽しそうに落としてゆく春樹くん。
春樹くんに促され、ひとつ開けて口に入れた。
「おいしい?」
「ウン・・おいしい」
残りのキャンディは「お昼にでも食べてよ」って言われて、スカートのポケットの中へとしまわれた。
口の中にイチゴの甘酸っぱい味と、ミルクの風味が広がる。

加瀬くんじゃない男の子にもらったお菓子を食べながら、加瀬くんじゃない男の子と並んでいつもの道を歩く。

これは、裏切り・・?