「ねえ、なんで坂川で助けてくれたの? もしかしてアレ、同情かなんか?」

そう言う春樹くんの目にはハッキリと苛立ちが滲んでいて、私はこれにも衝撃を受けた。
春樹くんがこんなふうに人前でイライラするところなんて見たことがない。

人に心の内を見せたがらない春樹くんは、人との間に常に一定の距離を保っておきたいタイプ。私にも似たような傾向があるから、私と春樹くんとの会話はいつだって上っ面と上っ面が世間話してるような、味も素っ気もない、つまんないモノにしかならなかった。
なのに今、それがハッキリと崩れている。
春樹くんが色々ブチ壊して私の領域に踏み込んできちゃったからだ。

いつもと違う春樹くんの勢いにつられて、つい、言うつもりのなかった本音が漏れた。
「同情じゃないよ。あれは共感」
「共感?」
探るように私を見ている春樹くんに頷く。

「うちもね、家族が上手くいってないの。だから気持ちわかる気がして。勝手になんだけどね?」
って言ったら、春樹くんが私の隣にストンと座った。
「そーいうことか。妙に親近感わくなって思ってたんだ」って。