「どしたの? 珍しいよね、こういうの」

出身が一緒だから時間が合えば同じ電車に乗ることはあるけれど、春樹くんがこうやって私に話しかけてくることなんて普段ならまずない。

「すみれちゃんと話がしたくて」
「ふうん・・・・」

私と春樹くんがする特別な話題っていったら、もうアレしか思い浮かばない。
坂川の万引き未遂だ。

けれど。なんとなく。

私は気が乗らなかった。
加瀬くんのいない今は、特に。

じっと私をみつめる春樹くんの後ろ、上り線のホームに目を向けてみてから思い出した。
そういえば春樹くんとは、会うのはおろかLINEすらしてほしくない、って言われてたんだっけ。
坂川で春樹くんに遭遇して以来、加瀬くんは春樹くんを毛嫌いしている。

さっき別れたばかりの加瀬くんの顔を思い浮かべながら、私は春樹くんの顔を見上げた。

「えーっと、話なら今度加瀬くんが一緒の時でもいいかな? 今日はもう帰っちゃったから・・」
「ーーーそう」

春樹くんが小さくつぶやいて黙り込む。
こんなふうに言われたら、この人はこれ以上食い下がってきたりしない。
だって春樹くんって、そーいう人だもの。

よかった、このままひいてくれそうだーーー

そこで私は「バイバイ」って手をふっとけばよかった。
なのにホッと息をついた私は、ついつい余計な一言を付け加えてしまう。
「でもよかった。思ったより元気そうで安心したよ」って。

すると春樹くんはーーー

「元気なワケないじゃん。すみれちゃんには万引きしくじって涙を浮かべてたオレがすっかり気分盛り返して元気に楽しくやってるよーに見えるワケ?」
「・・・・エ??」
「オレ、元気なんかもう一生出ない気がする」

「へ、へえ・・元気、ナイの・・」
「ないね」

私は耳目を疑った。
これ、ホントに春樹くん・・?

常に柔らかい物腰で、優しいけれど上辺だけの、中身のないスッカスカの会話しかしない春樹くん。
真面目で努力家で、誰に対しても愛想良く微笑みを絶やさないハズの彼が、今はニコリともせず私をシラけた目で眺め下ろしている。

「ーーーアナタ、ホントに春樹くん・・?」
「それ以外誰に見えるってんだよ。目え腐ってんの?」
「えっっ・・・ええええ・・・・」