加瀬くんが帰った後、ホームの隅っこのベンチに移動してガサゴソとイヤホンを探していたら、頭の上から「すみれちゃん」って声がふってきた。
びっくりして顔を上げるとすぐ目の前に春樹くんが立っている。

海の近い門島駅のホームはとにかく風が強い。
顔を合わせた瞬間、私たちふたりの間を縫うようにしてつむじ風みたいな突風がゴオッて吹き抜けていった。
「うわ、ビックリした・・」
「大丈夫? 目にゴミ入んなかった?」
さっきとなにひとつ変わらない佇まいの春樹くんが、爽やかに私に微笑む。

それ見て、心からウソでしょう、って思う。
潮のまじるベタベタした強風にふかれてもなお、春樹くんのクセのない真っ直ぐな髪はサラサラと素直だった。普通ならもっと、ガッカリするくらいボッサボサでグッチャグチャになるもんなのに。
生まれもって与えられる美の不公平に首をひねりつつ、私はすんごいことになっちゃってる自分の髪をせっせと直した。

どんだけ強風に煽られてもビクともしないイケメン、春樹くん。
中性的で線の細い、ちょっと女の子みたいな顔した春樹くんは、今日もとっても儚げで優しげだ。

ーーーだけどなあ。

コッソリと窺った春樹くんの顔から、私はそおっと視線を外した。
やっぱり目が死んでる。
春樹くんには高校生らしい歳相応の生気ってもんが全くない。