下り線のホームに小宮山と並んで立ってたら、改札を抜けてハルキが入ってきた。オレらの前を通り過ぎる時、すんげえ優しげな声と顔で「すみれちゃん」って小宮山に声をかけて手をふっていく。小宮山も笑顔でそれに応えて、同じように手をふりかえすのだ。

だけどオレはハルキに挨拶なんかしない。
それ見てるだけ。

小宮山と同中だからハルキも当然下り線だ。陸橋のすぐ下あたりまで歩いて行くと、ヤツはホームの鉄柱によっかかって電車を待ちはじめた。
その様子がまた腹が立つほどサマになる。どの角度から眺めてもケチのつけようのないイイ男なのである。
ハルキのイケメンっぷりに眉をひそめつつ小宮山に視線を戻せば、不安げな表情でじっとオレの様子を窺ってた彼女と目が合った。

「ねえ、なんでアイツいちいち声かけてくんの!?」
「そりゃまあ、一応友達だし・・?」
「あいつが小宮山と特別なオトモダチになりたがってたの、オレ知ってる」
「ーーーそうだっけかナ・・」

オレにハルキの話を持ち出されるのがめんどくさい小宮山は、なんとなーくこの場をごまかしはじめる。のらりくらりとオレをかわし続けーーー

「なあ」
「ん?? なに?」

彼女はまるで今はじめて会話がスタートしたかのような雰囲気を捏造して、オレが持ち出したハルキの話題を丸々ムシ。
強引にゼロ地点に引き戻してしまった。
これは小宮山がよくやる、仕切り直し系のインチキである。

彼女は『なんとなくウヤムヤ』な雰囲気を作るのがスゲー上手い。
つきあう前、オレはこれをマトモにくらっちゃ散々彼女に振り回された。
それに引っ張られないように、オレははっきりと不満を口にする。