だけどマナは加瀬くんの我慢なんかおかまいなし。
彼の鼻先に手のひらをつきつけてわざとらしくヒラヒラとふってみせる。
「さっきのチケット返して」
「オレだっていらねえよ。ちょっと待て」
そう言ってお尻のポケットに手をつっこむ加瀬くんを見て、マナが嫌そーうに顔をしかめた。

「あ、やっぱいい。あげるわ、それ」
「はあ?」
「だってそんなところから出されても気持ち悪くて触れなあい」
マナが首をかしげてニッコリ笑う。
「ゴメンね? 生理的にムリ」
「くっそ、オマエ・・!」
今度こそ加瀬くんがキレて、2人の激しい言い争いがはじまった。

ところが。本来ならこういう舌戦が大得意な加瀬くんが、今日はどうにも調子が出ない。
てゆーのも、さっきからマナが春樹くんをネタに加瀬くんをゆさぶりまくっているからだ。

加瀬くんが春樹くんに妙な対抗心を燃やしてるってことは、割とすぐマナにバレた。
弱みを握られた加瀬くんに勝ち目などなく、結果はマナの圧勝。
「可哀想だから今日のところはこの辺りでカンベンしてあげる」
加瀬くんを散々痛めつけたマナは、意気揚々、ご機嫌で5組に戻って行ったのだった。

「くっそー負けた!」

私の机にガックリ倒れ込んで加瀬くんが悔しがる。