「加瀬くん、数プリやって帰ろ?」
「ヤだ」

つきあいはじめた途端「こんなことは小宮山のためにならない」なんて言い出した加瀬くんは、めっきり数プリを見せてくれなくなった。

「だって小宮山、自分でやんねえんだもん。すぐオレの写すだろ?」
「ウン、まあ・・わかんない時はネ?」
「オマエ、だいたいわかんねえじゃねーか。自力で頑張るなら教えてやるけどさ」
なんて言って、先生か保護者のような目つきで私を見るのだ。

そりゃあ加瀬くんの言い分は正しい。
だけど私はガッカリだった。
理系科目が大キライな私は、当然のように私立文系大志望。
3年分の授業さえこなせればいーんだから、マジメに数学やろうなんて気はハナっからない。
スイスイと問題を解いていく加瀬くんの数プリを端からタダで写せるなんて、こんなに楽ちんでありがたいことはなかったのにーーー

「はーあ。せっかく彼氏が頭イイのに、これじゃあ賢い彼氏の無駄遣い」
「オマエねえ・・いい加減にしないとホントにアホになるよ?」

・・みたいな小競り合いが、日々、地味に続いていた。