大人しく座り直した加瀬くんが私を見てニッコリと目を細めた。

「なあ、小宮山」

甘い声が耳をくすぐる。
加瀬くんの後ろには、真っ白な百日紅(さるすべり)
びっしりと花をつけた枝が重そうに垂れ下がっている。

背中に目一杯お花をしょって加瀬くんが笑う。
「オレ、小宮山のこと大事にする。絶対」
「私も。加瀬くんのこと、誰よりも一番大事にするね」
顔をよせあってふふふって笑いあう。

「あ、そうだ。私も聞いていい?」
「いーよ、なに?」
「坂川で言ってたやつ教えて。不安がなくなる方法」
「あー、アレね」
加瀬くんが意味ありげに腕を組んでイヒヒって笑う。
「聞きたい?」
「・・・・やっぱ今日はいいや。やめとく」

「エ!? なんで??」
「また今度でいいかなって」

だって今の顔はダメだ。
すんごいヤラシイ顔してた。

「えーー!? せっかくだから試そうぜ?」
「ヤだ。やめとく」
「なんでだよ、オレは今試したい! んじゃ、試させてくれたら小宮山の言うこといっこだけなんでも聞いてやるよ。何がいい!?」
「今、特になにもない」
「くそー。んじゃ、えーっとーーー」

ああ、またはじまった。
加瀬くんの言い出したら聞かないヤツが。

季節は7月。
オレンジ色の夕陽に染まる公園の片隅で、私たちは1日の終わりと新しいはじまりを迎えていた。