そしたらいきなり、加瀬くんが「これ、欲しい!」って言い出した。
それをシツコク繰り返して子供のように駄々をこねる。

ああ、またはじまったか・・と思いながら私はさっさとカバンに手を伸ばした。
「悪いけどヤだ。家で作ってよ」
ファスナーをちーって開けようとする私の手を加瀬くんがガシッと掴んで引きとめる。
「わーまて、ストップ! まだ話の途中だろ!?」

ま、そーだよね。想定内。
加瀬くんのことだから、きっと諦めずに食い下がってくるんだろうなあとは思ってた。
しかし今日の駄々はいつものヤツよか少しばかりタチが悪い。

「これ全部くれたら昨日聞いた小宮山のエロい声、きれーさっぱり忘れてやるって言ったらオマエどーする??」
「ーーーーーハイ?」

なんと加瀬くんは卑怯にも、姑息な取り引きを持ち掛けてきたのだ。
「断るなら小宮山のエロい声、オレの頭ん中でエンドレスでリピートするけどいい?」とか言って脅してくる。
「加瀬くん、最っ低」
「だってこれ食いたい!」

そう言って駄々をこね続ける加瀬くんは、困ったことに思いのほかとっても可愛いらしかった。「小宮山の作ったやつ、食ってみたいんだよ!」なーんて言葉も胸に刺さる。

私一人で作ったワケじゃない。みんなで作ったカップケーキだ。
けれども好きな男の子にこんなふうに言われちゃったら、ふわふわと胸がときめいてしまうのはどーしようもない。

それでつい。よせばいいのに私はその怪しげな取り引きにのってしまったのだ。

「わかった、じゃあこれ全部あげる。そのかわり昨日のことはゼンブ忘れてね?」
「ヤッタ! ありがと!」