つないでた手を離して、加瀬くんが私の首に腕をまわしてシメてくる。
だけど・・

「ああくそ、ハラ立つのにやっぱ好き!!」

シメられてるはずなのにちっとも苦しくなんてなくて、それどころか大事に抱きしめてもらってるみたいな腕の中は、相変わらず恐ろしいほど居心地がよかった。

「一回ウンって聞いちゃったらもう待てない。お願い、もうハラ括ってよ」

こんな人、他にいない。
こんなふうに私のそばにいてくれる人。

最初の一歩を踏み出す時は、絶対に加瀬くんと一緒がいい。
んで、きっと今がその時だ。

「ぐずぐずしてゴメン。私を加瀬くんの彼女にしてくれる?」
首に回された腕に手を添えて、首を捻って加瀬くんの顔を見上げると、それに応えるように加瀬くんがぐりぐりと強烈な頬ずりをくれた。
「いーよ。彼女にしてあげる」
ムチャクチャ嬉しそうに絞り出された彼の声は少しだけ震えていた。

「じゃあ今日から小宮山はオレの彼女ね?」ってそっと腕をほどいてくれた加瀬くんの顔は、本当に晴れ晴れとしていてーーー

加瀬くんがまた私の手を取る。
今度はしっかりと指を絡めて。

手をつないで歩きながら夜空を仰いだ。
モールの明かりで星なんかいっこも見えなかったけれど、世界が輝いて思えた。

人生で初めて、私に恋人ができた。