「なあ、さっき約束したろ? 実践すんだろ? 今して。ここで」
加瀬くんが耳元でささやく。
「なあ小宮山、返事は? ウンは?」

間違いなく、今が『ウン』のタイミングだ。頷くなら絶対に今。

なのに私はどこまでいってもやっぱりヘタレでビビリでーーー
それで、ついまた逃げを打った。この期に及んでまでも。

「ま、まってまって! もうムリ、もうキャパオーバー。しばらく、ええっと・・ちょっとだけ休憩してもいい?」
って言ったら、甘ーい顔してた加瀬くんが一気に真顔になった。
「はあ? 休憩って何!? おっっまえ、オレの気持ちなんだと思ってんの!? 往生際がわりーんだよ、逃げまわんのもたいがいにしろ! 諦めてとっととオレにウンて言え!!」
加瀬くんがハッとして私を見る。
「オマエまさか・・オレのことぶっちぎって逃げる気!?」
「違うよ。そんなことしない」
「ホントかよ、アヤシさしかねーわ」

はーあってため息つきながら、加瀬くんがたこ焼きのパックを手にとった。
「じゃあ、もうちょっとだけ待ってやるけど絶対にウンて言えよ? 3日以内にだぞ? それまでにさっさと腹くくれ。わかった?」
「ワカッタ」
私の返事にマジメな顔して頷いた加瀬くんは、もう一度すっごい大きなため息をついてから、冷えたたこ焼きを口に放り込んだのだった。