「ねえ、加瀬くん・・」

加瀬くんの胸を押して、二人の間に少しだけスペースを作った。
でないと近すぎて、彼と目を合わせることができなかったから。

「あのね・・ちょっとだけ時間ちょうだい。ちゃんと返事するから」
「それ、いい返事?」
「ウン。いい返事する・・」

「オ、オマエ、今なんつった!?」
加瀬くんの切れ長の目が限界ギリギリまで大きく見開かれた。
「も、もういっかい、いって・・?」
「ちゃんとウンって言うからもうちょっとだけ待って、って言ったの」

「!!!」

肩の上でブルブル震えてる加瀬くんの手をすりぬけて、私はもう一度、勝手に加瀬くんの胸におさまった。
だってまだくっついてたい。もっとぎゅっと抱きしめてほしかった。
背中に腕を回してしがみついたら、呆然と放心してた加瀬くんがハッと我に返った。
そして私をぎゅうぎゅう抱きしめながら掠れた声を絞り出す。

「オマエ今、自分からオレに抱かれにきたよね!?」
「うん。ダメ?」
「〜〜〜ダメじゃねーよ、全然!! んだけど、こんなのーーー」

不意打ちが過ぎんだよ!って大騒ぎする加瀬くんを尻目に、私はその腕の中をじっくりと堪能した。

だってここ、強烈に気持ちがいい。

奇跡みたいだ、って思うのだ。
こんな場所ほかにはない。

こうしてると不安が薄らいでく。
怖いって思ってることも、もしかしたら大丈夫かな、なんて思えてくる。

「はあ。シアワセ・・」
「く、くっそう。オレのことフったら許さねえからな!」

うん。わかってる。
ちゃんと返事するから。

だから、もう少しだけ待ってて。