「ほらね? こんなの期待すんなってほうがムリ!!」

加瀬くんが言うのだ。
今だってそう。オレが何してもこんなふうに全部許すだろ、って。
そのたびにドキドキと頬を染めて、腕の中でトロンて崩れて。
可愛い顔してオレを振り回す小宮山は悪魔のように残酷だ、と。

「なっっ・・なにそれ・・!?」

だってそーだろ、って頬を撫でられて、ぞわりと背筋に震えが走った。
「見ろよこれ。今だってもうグズッグズじゃねーか。これが煽りでなくてなんなの!?」
ぐりぐりと首筋にアタマを埋められて、「ひゃああああ」って悲鳴が漏れた。

「エロい声だすなよ。これ以上オレを煽るな」

・・とか言いながら。

背中を撫でていた手がお尻のほうまで下りてゆく。ヤラシイ手をガシって掴んで制止しつつ、私は怒りに震えた。
冗談じゃない。自分の行いを棚に上げて何を言う。

「ーーー今の言葉、そっくりそのまま加瀬くんに返す!! 煽ってんのはむしろ加瀬くんのほうでしょ!!」

そしてそのまま私たちは、どっちが煽った煽らないのくだらない喧嘩に突入。

「絶ッッ対に、加瀬くんが悪い!」
「いーや、違う。小宮山だ!」

私たちの小競り合いは思った以上に長引いた。
日陰にいるとはいっても、ド真夏の午後だ。やっぱり暑い。
ゼイゼイと息の荒い加瀬くんが私を抱えたまま、すとんと地面にお尻をついた。

「・・アホらし。こんなん、もういーわ」
「そだね。実りがなさすぎる」
背中をコンクリブロックに預けて息をついた加瀬くんが、チラッと腕の中の私に視線を落とす。
「暑いだろ。離れないの?」
「・・加瀬くんこそ」

「・・・」
「・・・」

ムチャクチャ暑くて、ふたりとも汗だく。だけどそれでも離れたいとは思わなかった。
喧嘩の最中も、今も、私たちはずうっと互いの腕の中にいる。

「ホラね? オレらはもう、こーしてたほうが自然なの!!」
加瀬くんが私を抱く腕に力をこめる。
「友達のフリするほうがよっぽど不自然だって思わねえ?」

「ーーーうん。そうだね」

私もそー思うって素直にそれに頷けば・・

「マジで!? じゃあもうウンって言って!! 頼むから!!」

すんごい勢いで頭をおこした加瀬くんが、今日2回目の告白を開始した。
キツーく抱きしめられて息が止まりそうになるほど『好き』を連呼されているうちに、私は彼に手を伸ばしたくてたまらなくなった。
もう友達なんてイヤだ。彼女にしてって縋りつきたい。

ああ、そうか。

きっともう、怖いよりも好きが上回っちゃってるんだーーー