ガックリとうなだれた私は、ぎりぎりとグーを握りしめていた。

ああ、とうとう加瀬くんをフってしまった。
終わった。ホントにもうサヨナラだーーー

んで、ハッと気づく。
そうか。私、ここから立ち去らなければ。
俯いたまま腰を浮かしかけたのだけれど、未練がましい私は潔く立ち上がれない。

加瀬くんの顔が見たい。
バイバイする前に、もう一度だけ。

きっともう、こんなふうに顔を合わせる機会なんてなくなってしまう。
これが最後だから。私が初めて恋をした大好きな男の子の顔を、しっかり覚えておきたい。

ーーーそう、思って顔を上げてみたのだけれど。
どうしてか、私たちはバイバイとはならなかったのである。

「んじゃ仕方ねえな。友達でいる」

放たれた言葉に耳を疑う。
「エ!? いいの??」
「いいよ、オレは。友達でも」
何事もなかったかのようにケロリと頷く加瀬くんに私は愕然とした。
予想だにしなかったコトの展開についてゆけない。
唇を震わせて硬直する私を面白そうに眺めながら、彼はそおっと私の手をとった。
「そのかわり、もういっこ条件出す」
「条件??」
加瀬くんの親指がゆるゆると手の甲をなぞる。そして・・

「オレが触っても拒否らない。いいよね?」

まるで決定事項であるかのようなニュアンスで、しれっと告げられたそれに私は唖然とした。
「いっ、いや待って・・それってダメなヤツじゃない・・??」
だってそこを崩しちゃったら、実質彼女となにも変わんなくなる。
どんな顔して『友達』やればいいのか、わかんなくなる。
だけど、加瀬くんはキッパリと首を横にふるのだ。この条件つけてくんなきゃ友達なんかイヤだ、って。

「『彼女』か『友達』かどっちか選ばせてやるよ。ただし、友達選ぶ場合は絶対にオレの条件のめよ?」
「そんなインチキな二択って、ある・・?」

ついポロっともれたつぶやきに加瀬くんが嚙みついた。
「フザっけんなよ、このズル先に始めたのオマエだからな!?」
加瀬くんがぐいぐいと顔をよせて正面から睨みつけてくる。
「ハイ、んじゃ選んで。どっちにする?」
「ええっと・・」
「~~~早く決めろよ、あと2秒しかまたねえ!!」
「えええ。じゃ、じゃあーーー」

加瀬くんの勢いにおされるようにして、結局私は『友達』を選んだ。