耳を疑った。
だってこんなの初めてだったから。
加瀬くんが3番目の条件を持ち出して私に何かさせたことなんて今までに一度だってないのだ。

「ヒドイよ。こんなのされたら私、何にも断れなくなっちゃうじゃん」
「仕方ないよね。ウンって言っちゃった小宮山が悪い!」

私が思ってた以上に条件の使い道は無限だった。
その気になれば、いっくらでも悪用がきく。
「バカだよなー。よく考えてからウンて言えよ」
青ざめる私の手を取って、加瀬くんが勝手に誘導しはじめる。
「なあ、やってよ。オネガイ!」
「で、でも・・」
「大丈夫。こんなの今日だけ! 条件、悪用したりしないから。オレ節度のある男だし」
「それを今、信じろってゆーの?」
「ウン」

オイルの沁みたコットンがぺたりと加瀬くんの頬にくっついた。
「ハイ、やって?」
手え握られて、熱っぽい目でみつめられて、すんごい近さに加瀬くんが迫ってくる。

だけどだけどーーー

「いっ、いやだ、やっぱり恥ずかしい!!」

身体を後ろに傾けて限界まで後退しつつブンブン首を振りまくる私に、加瀬くんがムッと顔をしかめた。
「何言ってもムダだぞ。オレ、絶対にひかねえからな!!」
交渉でも説得でもなく、今日の加瀬くんはどうやら脅迫に主軸を置いているらしい。ドスの効いた声で私を脅しつつ、ぎゅうぎゅうと手を握りしめてくる。

私はそんな彼の顔を見て、小さくはあってため息をついた。
だって顔にデカデカ書いてある。『何があろーと譲らない』って文字が、くっきり浮かんで見えるよう。

きっと本当に、今日の加瀬くんには何を言ってもムダなのだろう。
私は大人しく、観念した。

「・・わかったよ。やるから手はなしてよ」
「へへへ。んじゃ、早くして?」

しかし。作業にとりかかってみたはいーのだが、私はすぐにまた新たな問題に直面した。
びっくりするぐらい進まないのだ。加瀬くんが大人しくできなくて。

***