殿山の一件以来、加瀬くんの様子が案外普通で変わりなかったなんて、そんなのは私の勘違いだった。

「なあ聞いてる?」
加瀬くんが私の耳たぶをつまんで、きゅっとひっぱる。
「聞いてるってば」
「んじゃ、放課後ね?」
「わかったよ」

気がつけば、以前よりもうんと近いとこに加瀬くんがいる。
こんなふうにあちこち触ったりつっついたりしながら、加瀬くんがじりじりと距離をつめてくるからだ。

だけどこの頃の私は、自分の気持ちがバレさえしなきゃ少々触られたってちっとも構わないなんて思ってしまっていて、耳たぶくらいなら加瀬くんのしたいようにご自由にドーゾ、って態度だった。
前みたいに距離取られて寂しい思いするよりは、このほうが全然いいって思って。

だけど、よく考えたらこんなの『友達』としては度を超えてる。
たぶん私のこういう気の緩みが加瀬くんを煽っていたに違いなく。

後から考えるに、おそらく、この辺りから私たちの『お友達関係』の崩壊は始まっていたのではないか・・・と、思うのだ。