可愛い小宮山の、可愛い寝顔に頬が緩む。

そのままコトリと机に頭をのっけて彼女の顔を眺めていると、ふと、初めて彼女と顔を合わせた日のことを思い出した。

オレが小宮山と出会ったのは今年4月。
新学期初日のことだった。

初めて見る後ろの席の知らない女の子とひと言、ふた言、短い会話を交わして前を向いたオレは、流れるような動作でカバンに右手を突っ込んだ。昼飯の足しにと放り込んできたチョコの大袋を引っ張り出すと、すぐにまた後ろの彼女を振り返る。

オレの一目惚れだった。

んだけど向こうはそうじゃない。
初対面のオレにいきなり手をとられてチョコをバラ撒かれた小宮山の引き攣った顔を、オレは今でもよおく覚えている。たぶんあの時の小宮山はオレに相当引いていた。

マイナススタートは承知の上で、次の席替えまでに彼女の『特別に仲の良い男友達』になること。
どっぷりと恋に落ちてしまったあの日から、それがオレの絶対の目標となった。

ーーーそんな彼女の可愛い寝顔が、今、オレの目と鼻の先にある。

キスしたらバレるかな・・なんて抑えがたい誘惑にかられたりもするけれど、やはりそれは人としてヨロシクナイし、盗むみたいにして唇奪ったって全然嬉しくない。
オレは意識のある小宮山から、きちんと望まれてキスしたい。
オレがいいって、オレが好きだって言わせたい。

かわりに、日誌の上に散らばるツヤツヤした髪の毛の先をちょっとだけつまんでみる。

おかしいな。なんで?

たぶんつきあってるやつはいない。
だから小宮山の一番近くにいる男は絶対にオレ。『特別に仲のいい男友達』って目標は、とうに達成してるハズ。

それなのに。

いつまでたってもオレは次のステージに上がれない。何をしても友達止まりのまま。
小宮山のオレへの扱いは、冨永となにひとつ変わらないのである。

一体どうしたら彼女はオレに振り向いてくれるのだろうかーーー

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