「これ、ほしい?」
って目の前にかざされたのは、半分に割られた真っ白い消しゴムだった。
「忘れたんだろ、消しゴム。小宮山(こみやま)がほしーなら、コレあげる」
休み時間が始まった途端にぐるんと後ろを向いてきたのは、前の席の男の子。
名前を、加瀬律(かせりつ)くん、という。

『ほしーなら』なんて言ってても、加瀬くんはのんびりと答えを待ったりするタイプではない。私が「ちょうだい」って言うよりも前に、もう手え掴んじゃう。
彼にはちょっと、せっかちなところがあるのだ。

私に消しゴムを握らせると彼は満足そうに薄っすらと頬を染め、元気よくまた前を向いた。
淡ーいピンクに色づいたほっぺは、男の子のくせに桃のようにピチピチと瑞々しい。色白の綺麗なオハダは加瀬くんのチャームポイントでもある。

「ありがとう」と間に合わなかったお礼を背中にささやけば、照れくさそうな顔をした彼がちょこっとだけ後ろをふりむいてくる。

「イイヨ。オレ、いっぱいもってるから」
「いっぱい持ってる? 消しゴムを??」
「オ、オウ。まーね。持ってる。腐るほど・・・」

「ふうーーん・・・」

そう言われて手の中の消しゴムに視線を落としてみるが、真新しい断面はまさに『今が割りたてホヤホヤです』と言わんばかり。
そこはかとなく漂いはじめる気マズ恥ずかしい空気に、私たちの視線はそれぞれ右と左にウロウロと泳いだのであった。

加瀬くんは、2年になってから同じクラスになった男の子だ。
性格そのまんまの意志の強そうな目をした、色白黒髪の背の高い男の子。

新学期の初日、加瀬くんは「お近づきのシルシに」って、私の手のひらに山盛りのチョコをくれようとして、それを盛大に机にバラまいた。
彼とはそれ以来のつきあいになる。