高い場所は苦手だし、イジメられる度に死ぬのだけは嫌だとずっと思って来たはずなのに不思議な感覚だった。


そして、ようやく人の流れが途絶えた。


今なら誰もいない。


今しかチャンスはない!


僕は一度空を見上げた。


真っ青な空に浮かんでいる白い雲。


それは死ぬ前に相応しいほど美しくて、自然と笑みがこぼれ出した。


笑顔になった次の瞬間、僕はフェンスを掴んでいる手を離していた。


足場の悪い場所ではそれだけで体のバランスが崩れる。


僕の重心は傾いて、ビルの外へと投げ出される。


落下していく最中でさえ僕は恐怖心を覚えなかった。


心地いい風を感じて、過ぎていく景色を見る余裕があった。


少し遠くに犬の散歩をしている女性がいる。