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それから数日間は何事もなく過ぎて行った。


母親は徐々に部屋の片づけを始めて、父親はいつも通り会社へ行く。


少し変わったことがあるとすれば、僕と父親は家事をするようになったことだった。


母親と同じようにキッチンに立てばそこで会話ができる。


母親と同じように洗濯物を干せば、そこでも会話が生まれる。


たったこれだけのことでも、一日中家にいて会話する相手が限られている母親にとっては大きなことだったのだ。


今更気がついても遅いけれど、この家に母親がいる間に少しでもそうした会話を続けて行きたかった。


父親も僕と同じ気持ちのようで『もっと早く母さんのことをちゃんと見てやっていればなぁ』と悔やんでいた。


これからだ。


これから3人のきずなをもっともっと深めていけばいい。


離婚は決まっているけれど、それを円満なものにするのも最悪なものにするのも自分次第だった。


「じゃあ、行ってきます」