「はい」


母親は短い返事でも声を震わせた。


「そうか」


それ以上誰もなにも言わなかった。


母親の不倫が表ざたになったときその家族はどうするか。


ひとつの選択肢は許す事。


そしてまた家族を立て直す。


もうひとつの選択肢は……。


「俺と離婚してほしい」


静かな空間に父親の決意を固めた言葉が響く。


僕は離婚をいう言葉にビクリとして顔を上げた。


母親は唇を引き結び、今にも泣飽きだしてしまいそうな表情を浮かべている。


だけど浮気してしまった側に権限などない。


相手がもう無理だと言えば、無理なのだ。


「……はい」


その時の母親の顔は、見る事ができなかった。