僕は目の間に立ちはだかっている灰色のドアに手を当てた。


ヒヤリと冷たくて心地いいはずが、背筋が寒くなる感覚を覚えた。


一か月後に死をぶら下げられた人はみんな、僕みたいに寒さを感じながら生きているんだろうか?


丸いドアノブを握りしめてゆっくりと回す。


そこには鍵がかけられていなかったようで、すんなりとドアは開いていった。


ギィィィと立てつけの悪い音を響かせて開いたドアの向こうには青空が広がっていた。


白い雲がゆったりと流れて行くのどかな風景。


そこにはイジメも余命宣告もなくて、ただただ穏やかな時間が続いているように見える。


だけどそうじゃないんだ。


今は穏やかな空でも曇り、雨を降らし、時には激怒したように雷雨をもたらす。


今見えているのは空のほんの一面でしかない。


それは人間でも同じだった。


いいことばかりじゃない。


時には死んでしまいたいほど辛い事もある。


僕は緑色の塗装が剥げてしまっているフェンスへと近づいて行った。