父親が投げて割れた花瓶が床に散乱し、母親が涙目になって怒鳴り返す。


「こっちのセリフだ!」


父親は次から次へと棚に飾ってある小物を壁に向けて投げつける。


干支の置物だったり、本だったり、ぬいぐるみだったり。


そのどれもが家族旅行へ出かけた時のお土産で、ひとつ投げられるたびに思い出が砕け散って行くようだ。


胃が痛くて、胸が苦しくて、泣きたいけれど母親が泣いているから泣けなくて。


「痛っ」


必死で父親を止めようとしていたら、花瓶の破片を踏んでしまった。


足の裏を確認すると大き目の破片が突き刺さっていてその脇から血がにじみ出てきている。


片足でソファまで移動して自力で破片を引き抜くと思ったよりも沢山の血があふれ出して来た。


テーブルの上からティッシュを取って傷口に押し当てる。


それでも血はなかなか止まらない。


引き抜いた破片にも血はついているし、思ったよりも深く刺さってしまっていたみたいだ。