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母親の浮気現場を見た後家に駆るのは気分が重たかった。


夕食の席を3人で囲んでいてもその味はわからないまま舌の上を通り過ぎるばかりだ。


「この豚の角煮おいしいでしょう? がんばって時間かけて作ったんだから」


母親は上機嫌で自分の作った豚の角煮を口に運ぶ。


「うん、そうだね」


父親はなにも答えないから代わりに僕が返事をする。


「それにこっちの黒豆も。美味しいでしょう?」


豚の角煮と黒豆という異質な組み合わせは両方とも母親の好物だった。


僕はうんうんと頷きながらそれも口に入れた。


だけど父親は母親の方を見ようともしない。


母親がこんな風に饒舌に話をするときはなにか嬉しい事があったとき、それと、後ろめたい気持ちを誤魔化すときだと決まっていたからだ。


今日はその両方が当てはまる日だ。


不倫現場を目撃してしまった僕にだけわかる。