母親が濡れたタオルで脂汗をぬぐってくれても、いつまでも噴き出してくる。


「病院へ行こう。ね?」


いそいそと準備を始める母親の腕を掴んで、それを止めた。


「病院に行ってもなにも変わらないから」


余命宣告されているのだから、どこにいたって同じだ。


それでも母親は心配顔で「でも、ちゃんと診てもらわないと」と、譲ろうとしない。


それよりも僕は真奈ちゃんのことが気がかりだった。


一応さっき連絡を入れておいたし、その返事も来た。


別に怒っている様子でもなかった。


でも、遊園地や水族館であれだけ楽しそうにしていた姿を思い出すと申し訳ない気持ちで一杯になる。


同時に、もしも真奈ちゃんが今他の男を誘ってサーカスに行っていたらどうしようかと、そんな心配ばかりしてしまう。


真奈ちゃんは美少女だ。


自分から声をかければ男なんてきっと簡単についていくだろう。


「ほら、タクシー呼んだから行くわよ」


結局僕は母親に半強制的に車に押し込められて、病院へ行くことになってしまったのだった。