「まだまだ、寝室には沢山あるけどね」


母親はため息交じりに答える。


「何十年もこの家で暮らしてきたんだもの。想像以上に物が増えていても仕方ないわよねぇ」


今度は懐かしさに目を細めている。


これからこの家を出て行こうとしている人とは思えなくて、思わず頬が緩んだ。


母親は誰と一緒にいようがやっぱり母親だ。


「ありがとうもう大丈夫だから」


一通り消毒してもらって、ようやく部屋へと戻る。


着替えを済ませてすぐにスマホを取り出した。


今日の出来事はちゃんと真奈ちゃんに聞いてもらわないといけない。


家に帰る途中で何度も連絡しようと思ったのだけれど、傷だらけで歩いていると周囲の視線を浴びて閉まってのんびり電話しながら帰る事ができなかったのだ。


《またなにかあったの?》


すぐに電話に出た真奈ちゃんが不機嫌そうな声を上げる。