「ううん。あなたたちのせいじゃない。だって、同じように頑張っている主婦の人は沢山いるから。結局お母さんが弱かったの」


母親とさっきの男性はそんなときに出会ったのだそうだ。


母親が買い物をしているときに落としてしまったハンカチを、あの男性が拾ってくれた。


たったそれだけの出会いが、母親の心をとらえてしまった。


日々の生活に孤独を感じていた母親は、これも僕の受験が終わるまでのことだからと考えていた。


それまではなにも言わずに我慢するつもりだった。


だけど、男性はいとも簡単に心の中に入って来た。


孤独だった母親を包み込むように笑顔を見せて、居場所くれた。


話を聞きながら僕は目の前のコーヒーが冷めていくのを見つめていた。


やっぱり、無理して苦手な飲み物を頼むんじゃなかったかもしれない。


さっきから舐めるようにしか口をつけていなくて、全然減らないままだ。


「相手の人は、年上?」