父親は会社で出世したばかりで本気になって打ち込んでいた。


帰りはいつも遅くて、朝は早く出勤して行く。


そんな中は母親は1人孤独を抱えていたんだ。


「直樹もお父さんもどんどん前へ進んで行ってしまって、1人だけ取り残されている気分になったのね」


「そんな。お母さんもいつも頑張ってくれていたじゃないか」


それでも母親は悲しげな表情で笑うばかりだ。


「毎日毎日同じことの繰り返し。台所に立って料理をして、洗濯や掃除をして、それだけの人生だと思ってしまったの」


僕は返す言葉がなかった。


それが母親の仕事だと思っていたから、僕は今までほとんどなにも手伝ってこなかった。


隣に立てば会話ができたのに。


そう思って反省したのは、2度目を歩いているときだった。


「ごめん。僕らがもっとお母さんの手伝いをすればよかったんだ。そうすれば、お母さんが孤独になることはなかった」