「行って来たら?」


真奈ちゃんがトンッと背中を押したことで、周囲の喧騒が戻って来る。


「うん……そうだな」


母親もこちらに気が付いて戸惑っているようだし、このまま話もせずに帰宅したら余計に気まずいことになってしまう。


僕の心残りが増えてしまうことにもなりかねない。


僕が近づいて行くと、母親は隣の不倫相手に何かを説明した。


相手は驚いた様子で僕を見つめて、軽く会釈をしてくる。


それに対して反応はしなかった。


母親の心は完全に不倫相手に向かっているはずだけれど、今はまだ違う。


母親はあんただけのものじゃない。


不倫相手はそのまま踵を返して雑多の中に紛れ込んだ。


一度振り向いてみると真奈ちゃんもいつの間にかいなくなっていた。