7月8日。


「あなたの命はもって一か月です」


突然そんなことを言われても現実感なんてまるでなくて、僕はただ馬鹿みたいに丸い椅子に座って初老の医師の顔を見つめていた。


梅雨が明けて外は随分と暑くなってきているのに、診察室の中は凍えるほどに冷たい。


いくらなんでも冷房をかけ過ぎじゃないかと思って部屋の中を見回してみて、初めて自分が震えている事に気が付いた。


初老の先生は深刻な表情でなにかを話続けている。


僕はその言葉を必死に聞き取ろうとした。


けれどまるで頭の中に入って来ない。


唯一聞き取れたのは『ご両親』とか、『連絡を』とか、そういう言葉。


ついさっきまで僕は自分の病気について早く知りたくて、この意思に無理を言って状態を説明してもらっていた。


医師は頑なにご両親との来院をと伝えてきていたのだけれど、僕がそれを押し切った形だった。


単なる胃腸炎。


そう思っていた。