〈楓side〉
 10年後
 僕は医者になった。心臓病の人を笑顔にしたいから。涼音ちゃんをこの世から、僕から奪った心臓病を根絶させたかったら。罪滅ぼしをするため。
 今日も、日勤が終わったら部屋にこもって、心臓病の特効薬を探す。

 そのまた2年後
 最近、寝不足だ。日光を最近浴びていない。病院まで歩いていたら、涼音ちゃんのお母さんに会った。会うのは涼音ちゃんが亡くなった日以来だ。ちょっと気まずいな。
 「ねえ。」
 「はいぃっ!」
 びっくりして、思わず声が裏返ってしまった。
 「楓くんが医者やってるのって、涼音のためだよね?医者、辞めなよ。自分のためにならないじゃない。今がいちばん楽しいときなんだから、楓くんが本当に就きたい仕事に就きなさい。」
 確かにそうだ。僕が医者をやっているのは涼音ちゃんのためだ。涼音ちゃんが好きだったんだから、医者だって自分がいちばんやりたいことだ。それを否定されているようで傷ついた。
 「自分のためにやっているんです。医者になるために勉強したら、頭がよくなりました。確かに涼音ちゃんのためです。涼音ちゃんの笑顔を守りたいから医者になったんです。文化祭の準備で涼音ちゃんが倒れたとき、もし涼音ちゃんが死んじゃったら、自殺しようと考えました。罪滅ぼしのために。」
 涼音ちゃんのお母さんが息を呑んだのが見て取れた。でも僕は迷わずに続ける。
 「でも、僕が自殺したら、涼音ちゃんが悲しむだろうと思って自殺するのはやめて、医者になろうって決めたんです。これが自分がいちばんやりたいことです!ではさようなら。また会える日まで。」
 そう言って、僕は走った。ちょっとくらっとしたが、なかったことにした。寝不足がたたったのだろう。
 今日も、深夜まで心臓病の研究をしていた。心臓病を完治が困難。特効薬なんてものは今のところない。
 ああ、なんかくらくらする。息が苦しい。貧血かな。気づいたときには倒れていた。そして息苦しさが激しさを増していき僕は意識を手放した。死にそう。