そして、担当の先生に宣告された日がやってきた。今日を通り過ぎたら、いつまで生きられるか、未知の領域だ。
 夕方、また楓が来てくれた。毎日来てくれるなんて、なんて優しい人なんだろう。楓は、私には身に余るくらいの人だ。
 今日もたわいのない話をする。そして笑みを交わす。今日は生きられそうだな。楓が私に生きる希望を与えてくれるんだ。余命宣告されたとき、私は笑えなくなった。まだ、生きていられると思った。なんで私なんだろうって泣き叫んだ。神様は不公平だと思ってしまった。大好きなお母さんがつくるご飯が喉を通らなくなった。そんなとき、手を差し伸べてくれたのが楓だ。楓の前でなら本音が言える。家族やクラスメイトの前でだと猫を被ってしまう。私は強いから大丈夫だと言い張ってしまう。死ぬのは怖くない。むしろ天国ってどんな場所なんだろうと思っていたから嬉しい、と言ってしまう。でも、そんなのは嘘だ。本当は死ぬのが怖い。天国ってどんな場所なんだろうなって思ったことは一度もない。
 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。死ぬのが怖いっ!
 そう思っていたら、だんだん息が荒くなっていった。はあ、はあ。息が苦しい。発作だ。息苦しくなるのは、心臓病の発作だと教えてもらった。このまま私、死んじゃうのかな。やり残したことが1つだけある。楓とキスがしたかった。ねだってみようかな。
 「ねえ、楓。私もう死んじゃうよ。」
 呟くように言った。
 「そんなこと言わないでよ。涼音ちゃんはまだ生きるんだよ!」
 「でもね、そ・・・・・・そんなこと言ってもしょうが・・・・・・ないんだよ。もう死んじゃいそうな感じがするの。私は、さ、・・・・・・悟ったんだよ。・・・・・・死ぬことを。」
 息苦しくて途切れ途切れになる。楓は大粒の涙を流しながら、私の話を聞いてくれた。最期のお願いを聞いてもらおう。
 「ね・・・・・・え。かえ、で。最期のお、お願い。」
 「ん?なんでも叶えるよっ!涼音ちゃんのためなら」
 「わ、わた、しに、キス、し・・・・・・てっ?」
 私がそう言うと、楓は静かに顔を近づけてきた。そして、楓の唇と私のそれが重なった。幸せだったよ。楓と過ごした約15年間、すごく楽しかった。私も涙を流した。