〈涼音side〉
 私が次に目を覚ましたのは、太陽が照り付ける午前中だった。生き延びることができたと喜んだ。でも、私はもう退院できないらしい。いつ倒れてもおかしくないから。病状が明らかに悪化しているから。
 私が倒れてから、楓は毎日病院にくる。そして毎日謝る。楓は悪くないのに。参加したのは自分なのに。でも楓が来てくれることが嬉しい。生き甲斐だ。

 入院してから1か月。担当の先生の先生に呼ばれて、私はお母さんと一緒に応接室に出向いた。
 「今日、おふたりを呼んだのは、大事な話をするためです。覚悟して聞いてください。」
 昨日私は精密検査を受けた。その結果が悪かったのだろうか。私は胸に手を当てて呼吸を整えた。
 「涼音さんの病気は、目に見える程進行しています。余命は1か月と考えてよいでしょう。そして、夜中、いつ酸素が足りなくなって心臓が止まってもおかしくないので、人工呼吸器をつけるべきです。どうしますか?お母さん。」
 「人工呼吸器をつけて、長く生きられるのなら、つけてください。お願いします。」
 お母さんは迷いなく即答した。私は愛されていると実感した。

 次の日も、楓は学校帰りに、お見舞いに来てくれた。そして、友達のお弁当がキャラ弁だった、とか、クラスメイトが学校1かわいい女の子に告白してあっさりフラれた、とか、その日あった出来事を話してくれる。やっぱり楓は私の生き甲斐だ。人工呼吸器をつけている私を軽蔑しないで話してくれる楓はやっぱりやさしい。ずっとこんな時間が続けばいいのにな、なんて思ってしまう。でも世の中そんなに甘くない。私の命の期限は刻々と迫って来る。1週間に2回くらい息苦しさが襲い、激しい眠気がやってくる。その度に親や楓、友達を心配させてしまう。申し訳なくて、自分がいたたまれなくなる。